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コミケ83「東Q-15b」ふぇにどら!!様の合同誌に参加します

コミケ83「東Q-15b」ふぇにどら!!様の合同誌に参加します。『吸血鬼譚』吸血鬼アンソロ、R18と全年齢対象の二種類(分冊)、ペンネームはエルスで、『更待月』という作品を書かせていただきました。
主宰サークル様ブログ
 12/29です。よろしくお願いします!

 サンプルは「続きを読む」からどうぞ!
     *

 古ぼけて、走る度にがたがたと騒ぐ乗合自動車だけが、でこぼこした山間の細い道をようやく走っている。私が研究のために訪れたのは、帝都から遠く離れたそんな片田舎だった。
 私自身は東京で生まれ育ち、従ってこんなにも山深い景色になどまったく馴染みがなく、ここは本当に同じ日本なのだろうかと、揺れる車窓の外を驚きを以て眺めていた。
 やがて、一時間も走ったろうか。車は終点に辿り着いた。どやどやと降りていく土地の者達に混じって、私もようやく揺れない地面へと足を付けることができた。
 時刻はすでに昼を過ぎている。しかし夏の盛りのこととて、日没にはまだ十分な余裕があった。
 私は荷物を背負い直し、辺りを見回した。東京ならば確実に車が数台止まっているだろうに、むき出しの地面には砂埃と乗合自動車の乗客達がつけていった無数の足跡以外には何もない。
 さてどうするかと、私は思案に暮れた。
 これから私は、少し先にあるMという村で泊めてもらうことになっている。あらかじめ聞いていたところでは、このバス停からはさほど遠くないという。
 幸い、東京と違い山の中では風が相当涼しかった。自然の恩恵という奴だろう。長時間座りっぱなし、しかも揺れるものだから疲れていないわけではなかったが、私は割に元気よく、地図を頼りに歩き始めたのだった。
 東京は生まれ故郷というのもそうだが、やはり便利である。こういったまったく無造作なまま放り出された自然にお目にかかることなど皆無に等しい。特に私の家は中心部にあるものだから、歩けども歩けども人の気配を感じる事ができないという経験は、これが初めてだった。
 最初は物珍しかったそんな雰囲気も、慣れてしまうと今度は薄気味悪くなる。まだ人の住む集落が見えてくる様子はない。本当にこの道で正しいのかと地図を見直しても、やはり私は間違っていないようだ。
 と。
 心細い私の気持ちをさらに煽り立てるかのように、あんなにも気持ちよく晴れ渡っていた空が突然暗雲に侵され、みるみるうちに激しい雨が頭上から降り注いできたのだ。
 私は背中のリュックサックを急いで胸に抱え込むと、一目散に走り出した。驟雨は叩きつけるように私の肩といわず背中といわず襲ってきて、碌に前も見られないほどだった。
 だから。
 地面ばかりを追っていた視界に、突如玉砂利が飛び込んできたとき、私はひどく驚いて立ち尽くしてしまったのだ。
 いったい、どこをどうして走ってきたのだろう。知らないうちに本来の道から外れ、人家への私道へ踏み入ったものらしい。
 そこにあったのは、今しも崩れ落ちそうな古びた門構えだった。奥には小さな家があり、やはり手入れも行き届かず所々崩れてすらいた。
 空き家だろうか。私は腕の中の荷物を思い出し、それならばここで雨宿りをしようと考えた。どうにもすぐには止みそうのない勢いなのだから。
 ずかずかと門の中をくぐる。廂に辿り着き、扉に手をかけようと手を伸ばした。
 その、時だった。
 あの瞬間ほど、胸をとどろかせたことはなかった。空き家とばかり思っていた家の戸が、中からすうと開いたのだから。
「……どちら様でいらっしゃいましょうか」
 身体をのけぞらせ、荷物を取り落としそうになっている私に、扉向こうの影が口を利いた。
「あ……あ」
「何か、宅にご用でしょうか?」
 抑揚のない、しかし美しい声だった。
 驚き冷めやらず、なかなか適切な答えを返せずにいる私を訝ったのか、相手は一歩、こちらへ近づいてきた。
 そこで私は、またしても驚きに打ちのめされたのだった。
 背筋が凍るほどの、世にも美しい少年がそこにいた。雨の帳を通してもはっきりと見て取れる凄艶に整った顔立ち、赤い唇、濡れたように黒い髪。そんな美貌の中にあって不釣り合いなほどあどけなく頼りない瞳が、ふと私を映してたゆとうた。
「道に迷ってしまわれたのですか? とにかくどうぞ、そこにいらしては風邪をお召しになります」
 言われて私は、あれほど必死に守ろうとしたリュックサックすら無防備に雨に晒して、木偶の坊のように立ち尽くしている己をようやく自覚したのだった。

     *

「ご本は大丈夫でしたか?」
 茶を持ってきてくれた少年は、そう言って静かに後ろに座った。湯上がりの心地よい温もりを纏ったまま、私はそちらを振り返る。
「ええ、何とか。文字が読めないことはないようです。念のために奥の方に入れて、風呂敷で包んでいたのがよかったようです」
「それはなによりでした」
 少年は、ひっそりと微笑んだ。
 濡れ鼠になった私に、少年は風呂を用意してくれた。温まって出てきたところにはきちんと折りたたまれた浴衣が用意され、今香りのよい茶までご馳走になり、私はいささか恐縮の態だった。
 田舎の人は、我々都会に住む者よりも素朴で人がいいと聞いてはいたが、見ず知らずの私に対しここまで至れり尽くせり世話をされると、やはり疑心暗鬼になるのは悲しい都会人の性だろうか。
「本当にありがとうございました」
 しかしそれはそれとして、まずは礼を述べた。少年は儚い笑みのまま、いいえと首を振る。
 見れば見るほど、美しい少年だった。私のように湯を使ったわけでもないのに、白皙の肌もぬばたまの黒髪もしっとりとした艶を帯び、あどけない瞳のびっくりするほど大きく円いのを引き立てているようだ。その双眸が私を映し、紅を刷いた小さな唇が、頼りない声音で言葉を紡いだ。
「失礼をいたしました。私は弓月……弓月音弥と申します」
 音弥。
 丁寧に頭を下げた彼の、何というなまめかしさ。
 しばし惚けていた私だが、音弥が顔を上げるときには自らも名乗らなければならないことを辛うじて思い出した。
「私は五木信助と言います。東京で大学の講師をしておりまして」
「ああ、やはり。この辺りの方ではないとお見受けいたしました」
 他愛ないことを話すうち、音弥の笑みには打ち解けた柔らかさが混ざるようになった。年は十六、母親が亡くなってから他に身寄りもないのでもう二年ここで暮らしているという。
「こんな寂しいところで、一人?」
「もう慣れました。生まれたときからここに住んでおりますから……」
 私はそれを聞いて、この少年の年に似合わぬ寂しげな頼りなさの由来がわかったと思った。
 一番近い村のMからも、徒歩で半時はかかる。恐らく村の子供達と遊ぶこともほとんどなかったに違いなく、母親だけを話し相手に成長してきたのだろう。
 出会ったばかりの、縁もゆかりもない相手に、私は深い同情を覚えずにはいられなかった。
「五木様は」
 考え込んでいた私に、音弥が今度は問いかけてくる。
「なぜこのようなところに? この辺りには見て回るようなところも、宿も碌にはございませんでしょうに」
「ああ」
 私がすぐに答えられなかったのは後ろ暗いところがあったわけではなく、単に理解してもらうためにどう説明すればいいか逡巡したからだ。
「実は、私は日本の妖怪を研究しているのです」
 結局、率直に話すのが一番と思い、私はそう話し始めた。
「明治以降、他国の文明がどんどん入ってきて、近年では科学も進んで生活が便利になってきていますが、そのためにこの国特有の妖怪や怪談というものがどんどんなりを潜めている。私は本当の専攻は英米文学なのですが、そのせいで逆にそういった古くさい草双紙的なものに心惹かれるのかもしれない。暇を見つけては、こうしてその土地その土地の民話や妖怪譚などを蒐集して回っているんです」
「妖怪……」
 ぽつ、ぽつ、と。
 音弥の呟きに混じって、雨だれが縁側を打った。
「何しろ、本になってまとまっているわけではない話がほとんどですからね。それでも江戸時代には、とてもいい資料が作られていたんで、それを手がかりにいろいろと……。ああ、これは失礼しました。つまらない話を」
「いいえ」
 音弥は、小さく首をかしげて私を見た。そういう仕草のどこか少女めいた匂いは、長く女親だけで育てられた環境故か。
「生憎、私はそのような方面に疎くて……。今、どんなお話をお調べなのでしょうか?」
「そうですね」
 思いがけず彼が興味を示してくれたのが嬉しくて、私はつい調子に乗ってしまった。
「吸血鬼、という魔物が、西洋にはいるそうです。人間の血を吸い、吸われた者を仲間として増やしていくそうなんですが、私が今調べているのもそれと似た話なのです」
 言葉の切れ間に、雨音が忍び込む。まだまだ止みそうもない。今、何時だろうか。ふとそう考えたものの、なぜか時計を見る気にはならなかった。
「この国の血を吸う妖怪達は、西洋の吸血鬼とは違い、人間が血を吸われても妖怪になることはなく、死んでしまうだけです。しかもおもしろいことに、動物のような姿のものの他には、女性ばかりなのですよ。それも血そのものではなく、男性の命や精気を吸い取ったり、または殺して肉を喰らうのが目的です」
 研究といっても道楽なので、私が調べた限りでは少なくともそうだった。唯一の例外は『雨月物語』に出てくる青頭巾だ。他は圧倒的に、男から何かを吸い取る女の姿をした怪異が多い。
「それで、もしかしたらこの辺りにも何か新しい話がないかと思い、やってきたんです」
 音弥もこの土地の住人だ。もしかしたら詳しい事を知っているか、そうでなくとも語りうる人物に心当たりがないかと期待したのだが、少年は無言で首を振っただけだった。
「申し訳ありません。お役に立てなくて」
「いや、いいんです。どうせMで聞き込みをするつもりだったのだから」
 少々がっかりしたのも事実だが、当初の予定が変更されなかったというだけだ。悄然とする音弥の様子に、かえってこちらの方がいたたまれなくなる。
 それにしても、本当に困った。雨の音は依然激しいままで、暗くなる前に止む様子は全くない。もし何とか歩けるくらいに弱まったとしても、街灯もない真っ暗な道を一人進むのかと思うと心細くてたまらなくなる。
「日暮れまでには、止みそうもありませんね」
 私の心を見透かしたように、音弥が言った。
「暗くなってからでは、この辺りは危険です。よろしければ、どうぞお気兼ねなくお泊まりください」
 幸い夜具の余分はありますから、と続ける少年の、身じろぎした拍子に立ち上る何ともいえない甘い香り。
 並外れた美貌というのは、普段人間が当たり前と思っている常識や観念というものすら容易にかき消してしまうらしい。口の端に笑みを浮かべ、華奢な手を差し伸べてくる少年から、私は目を離すことができなかった。
「話し相手もいないこのような有様ですから、一晩なりと滞在いただけるならばむしろ嬉しいことです。久方ぶりに、人らしいやりとりもできようもの」
 少年の指が、私のそれに絡みつく。無骨で太く日に焼けた私の手と、抜けるように白くすぐにでもぽきりと折れそうな、少年の爪の先から手首までの、頼りなげで滑らかな線。
 本当に彼は、生きた人間なのだろうか。
 音弥は一歩、膝を進めた。近づいた美しい顔と細い肩、着物の襟足から覗く首筋に、ひっそりと纏い付く髪の黒が、ぐるぐると渦を巻いて私の中へ入ってこようとする。
「どうぞ、こちらへ」
 気づけば私は、しっかりと少年の背中に腕を回していた。私を導く彼の肌がほんの僅かでも離れぬよう、指先にも力がこもっていくのをぼんやりと感じていた。
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「かなりあ」という作品で掲載されました。
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(株)パブリッシングリンクの「ルキア」というレーベルから、『奇跡の歌は南を目指す』配信中です! 詳しくは出版社サイトや公式ブログ、当ブログをご参照ください。よろしくお願いいたします!

八谷 響@エルス

Author:八谷 響@エルス
 WEBマガジンのQuqua:(ククア)様にて、八谷響のPNで作品を寄稿させていただくことになりました。少女もののハートフルラブコメになってます! (株)パブリッシングリンクより、「奇跡の歌は南を目指す」でデビューしています。よろしくお願いします。

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