ハロウィンと夜の物語~シェイマス・リヴァモア~

 やっとここまで来ました。歴史の考察とか調査が意外に時間かかりました……。これで作品を作る陛下はやはりすごい。

 一曲目の歌詞を順番に見ていったら歴史的事実に触れたところばかりだったんですが、「弱いもの集まれば~」以降は、一人の男の人生へと焦点が移っていきます。「弱いもの~」以降は、どうもアメリカにおける当時の差別を表した部分ですが、アイルランドからの移民達はどちらかというと差別を受ける側でした。当時はまだ黒人の奴隷制度でごたごたしていた頃で、ただでさえ仕事になかなか就けないアイルランド人達は、黒人と仕事の奪い合いをするような状況でした。自然、両者の関係は悪くなります。アイルランド人は、黒人を差別することで「自分達はアメリカ人(もちろん白人社会の意味)である」ということを示していったのです。これがのちの南北戦争において、アイルランド人兵士達の働きに繋がっていくんですが、ちょっと先の話です(南北戦争は1861~65年)。CDの時間軸は10年も幅がないとみているので、時代は1850年の頭くらいまでだと思っています。これは後述。

 歌詞の後半は、「男」を視点として進んでいきます。流れ弾で膝を砕かれて退役してから、ろくな仕事にありつけず悲惨な思いをしていったことが語られます。流れ弾ですけど、1850年初頭にはアメリカでも大きな戦争はなかったようなので、軍人としての負傷ではなく、事故のようなものだと思われます。「男」がいたのはカリフォルニアじゃないかとみているんですが、ゴールドラッシュのころは治安が悪くて、自警団みたいなのをコミュニティごとに作るほどだったらしいので、あるいはそういう無法者達の争いに巻き込まれたのかもしれません。

 原因はともかく、仕事のない「男」は流浪の果てにどこかの街で恋人ができた。この街こそサンフランシスコだと思われます。ゴールドラッシュで人が増えたおかげで急速に発展した町で、移民も多かった街です。1852年には、ウェルズ・ファーゴという金融機関ができています。港町なので船の出入りも多かったらしい。そういう賑やかなところでなら、なんとか「男」も仕事を得ることができた可能性は高い。そして少ない賃金で故郷の妹へ仕送りを続けていたらしい。

 恋人の名前はディアナ。英語読みではダイアナになるので、恐らくアメリカ人ではないと思われます。前にも書いたように舞台がサンフランシスコなら移民が多いし、今でもサンフランシスコはラテン系の人が結構いるそうなので、彼女がイタリアから移住してきた人でも不思議はありません。前の記事でも書きましたが、旦那さんに呼ばれたり先に移住していった身内を追いかけて渡ってくる女性達もけっこういたらしいです。ともあれ「男」は恋人と幸せな日を過ごし、ある日身ごもったことを告げられる。

 このあたりの台詞ではディアナしかしゃべっていないし、歌詞もさらっと進むので最初は見落としたんですが、「月を経た祝福…唇を重ねた」と歌詞にあります。単に妊娠してキスをしたという意味でも取れるんですが、歌ってる時は「月をえた」って聞こえるので、「ツキ(運)を得た」と、「月を経た」を書けているのではないかと考えられます。その前の「お腹に手を当て」からつなげてみると、どうもここ、ある程度の時間の経過を表しているのではないかと思えます。「月を経た」と言うからにはそれなりの時間が経った場合の表現です。二日とか三日だと「月を経た」とは言わない。文字通り「何ヶ月か」の経過を表す言い回しです。そして、妊娠も確かに嬉しいことですが、「祝福」されるべきは喜ばしい帰結を迎えた時、すなわち「無事な出産」の時ではないかと。妊娠だけじゃまだ何が起きるかわからないし、今みたいに医療技術や機関も整ってないので、みんながみんな安産するとは限らない時代です。だからなおさら、妊娠だけじゃ「祝福」はされないんじゃないかと思うのです。ので、「月を経た祝福」は、「十月十日過ぎて無事に子供が生まれた」という解釈はできないでしょうか。

 そして、そのあと「唇を重ねた」と来るのも、何か裏の意味はあるのではないかと考えます。悪いことではなく、単にキスをしたという意味ではない、ということです。恋人なんだからそりゃキスはするし、むしろ普通のことではないかと。まして西洋の方々ですから、挨拶的なキスだってします。のに、わざわざ「唇を重ねた」と断るからには、何か意味が隠されているのではないかな、と思ったのです。キリスト教において「唇を重ねること」が特別な意味を持つ儀式があります。いうまでもなく「結婚式」です。日本でも教会で結婚式やる時は新郎新婦がキスしますよね。サンホラ界でも、誓いの口づけで残酷な永遠という苦い毒をくらう覚悟を決めて共に生きることになったカップルがいますね。

 ちょっと強引じゃないか、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ここに「結婚した事実があったのではないか」と考えるのは、もう一つ理由があります。それは「男」もディアナもカトリックだったと思われるからです。「男」はここまで見る限りはアイルランドからの移住者、アイルランドはカトリック系です。さらに、聖パトリック大隊(ほぼカトリック)を「同胞」と彼が呼んでいることからも、それは考えられると思います。ディアナがイタリアから来た女性だとすると、イタリアなんかこってこてのカトリックです。法王様もおられるくらいです。バチカンだけど。こうして二人ともがカトリックだとすると、子供ができたら結婚しなければならない宗教上の理由ができてしまうのです。カトリックでは、私生児は忌避される存在です。「悪魔の子」とか言われるくらいのひどい迫害を受けます。知り合いのカトリックの人に聞いたけど、今でもやっぱり怒られるそうです。

 少ない賃金を妹に仕送りし続けるくらい家族思いの「男」が、自分の子供がそういう目に遭うとわかっていて結婚しないで放置するなんてことはないと思われます。私生児産んだ母親もやっぱりひどい目に遭うので、なおさらです。今の日本みたいに来賓呼んでなんちゃらってことは別にしないから、教会で誓いを立てれば結婚成立です。時代はちょっと後なんですが、シャーロック・ホームズの「ボヘミアの醜聞」で結婚式のシーンがあり、お客さんとか誰もいなくても必要な手続きさえ踏めば結婚成立するのが窺えます。あそこはカトリックじゃないですけどね。というわけで彼らは結婚して、子供も産まれていたのではないかと考えます。最悪子供は生まれていなくても、やっぱり結婚はしていたと思います。今よりも宗教的なタブーは意識として強く顕れた時代でしょうし。そすと、英語ナレーションの「新しい始まりを告げようとしていた」も、子供の誕生を暗示するものとして解釈できるかな。

 しかし、「男」は月(ツキ)のない夜に背後から刺されます。相手はどっかの破落戸。しかも「野心家」だったらしい。目的は、たぶんディアナを得るためには「男」が邪魔だったからでしょう。歌詞で「ツキ合いたい女ハ〆るための手筈」と言ってますし。これもダブルミーニングですね。あえて解説はしない。(*ノ△ノ)

 目的がディアナ、彼女を自分のものにするための「手筈」として「男」を殺したということになるのでしょうが、言葉の表現として「誰それをはめる」というと、「誰それを計略に陥れる、罠に陥れる」のような意味として使われます。単に女一人手に入れるには大げさなような気がしますね。だから、何かしら別のもう一つの目的があったのかもしれません。「野心家」ですし。たぶんディアナは異国の地に女一人で生きてきてたと思われるから、もしかしたら資産もそれなりだったのかもしれません。西部の女性は逞しかったそうです。

 それでも、相手の男を殺すのはけっこうリスクというか手間というかがあったんじゃないかと思います。無法地帯とは言え無政府状態じゃないので、いちおう曲がりなりに保安官とか警察とかもいたはずですし。あとコミュニティが作っていた自警団。治安が悪いほど同じ仲間意識を持つ集団の結束力は強くなりますから、もし犯人だとばれたら報復を覚悟しなければならない。それでも「男」を殺さなければならなかったのだから、得られるメリットも大きかったのでは。ここでもやはり「結婚していた事実」が裏付けられる気もします。カトリックは確か相手が死なないと再婚できなかった(というか離婚が駄目)だったはずなので。破落戸の野心家は、ディアナ自身あるいは彼女に付属する何らかのメリットを手に入れるため、もしかしたら彼女との結婚すら望んで「男」を殺したのではないでしょうか。

 そして男は死にゆく中で「子供達の笑い声」を聞きます。音源ではハロウィンって言ってるので、ハロウィンをしている子供達の声を聞いたんでしょうが……そして「今日はハロウィンの夜」って言ってますが……。

 実はここ、不思議なんです。「ハロウィンについて」の記事でも書きましたが、アメリカでハロウィンが大々的になるのは20世紀初頭。この曲の時代が1850年代だとすると、まだまだかなり先の話のはず。1850年代あたりでも、特定のコミュニティではハロウィンをやってはいたんですが……。彼が死んだ現場はそういうコミュニティのある地域だったのでしょうか。でも、この子供達の声が二曲目の最初の方のと同じなので、「男」が死んだことで時間を超越したという考え方もできるかもしれませんね。

 歌詞の「シェイマスだかウィリアムだか」は、他の方の考察をみると、「男」の名前であるというのが定着しつつあるようです。ウィリアムをアイルランド読みするとシェイマスなんだそうです。死んでいったことで彼の名前も「遠い昔のこと」になってしまい、何か別の存在になったのでしょうか。

 三曲目をみると姓が「リヴァモア」だったということなので、語られることのなかった本名は「シェイマス・リヴァモア」ですね。


アイ・ラヴ・ハロウィン 第1巻

アイ・ラヴ・ハロウィン 第1巻

アイ・ラヴ・ハロウィン 第1巻

[原作]キース・ゲフィン [画]ベンジャミン・ローマン

「不愉快」ないたずらの物語。

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テーマ : Sound Horizon
ジャンル : 音楽

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すごいです!

考察、楽しく読ませていただきました。
まず、史実関係の掘り下げ方が素晴らしいですね!自分の場合、早く考察に移りたくてうずうずしてしまい(ハロパの前にあげたかったんですっ)、最低限の部分だけで次に行ってしまいましたが、こうして一連の記事を読ませていただいて、感動しております。これだけの史実をお調べなるのには相当なお手間と時間がかかったことでしょう。尊敬いたします。
「唇を重ねた」=結婚までは考えつきませんでした。感服です。
また寄らせていただきます~!

(´▽`)ありがとうございます

 こんばんは。ありがとうございます。読んでいただけると励みになりますね。
 いやぁ、ウィキ先生のお世話になりました。本当は2つか3つくらいの違う資料を照らし合わせて検証するのが一番いいんですが、さすがに時間がなくて……。世界史の授業では習わないような知識もあって楽しいですね。
 結婚云々はちょっと思いついたのと、カトリックで私生児が怒られるというのを前から知っていたというのがあって、仮説として立ててみました。その方が勝手に名乗るより自然かなと。3曲目の彼はきっと息子だと思ってます。
 何とか頑張って最後まで辿り着きたいと思います。またぜひいらしてくださいね。
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(株)パブリッシングリンクで主にファンタジーのTL、いるかネットブックスではBLとライトノベルで活動しています。

八谷 響@エルス

Author:八谷 響@エルス
 (株)パブリッシングリンクより、「奇跡の歌は南を目指す」でデビュー。最新作「貴公子が愛した身代わり乙女~想いは恋文に秘めて~」配信中。いるかネットブックスでBL、ライトノベルを配信しています。最新作は「カフェ・アクアリウムの不思議な事件」です。

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